ほたてがいの天然採苗があまり心配がないまでにいたった陸奥湾では、その生産力が問題になってきた。海の生産力とは養殖するほたてがいの数量がどれぐらいが適正なのかをきめる尺度である。こんなことをいうと、海をもっと富栄養化して生産力を増大せよという声が出てくる。ほたてがいの食べる餌は植物プランクトンや有機懸濁物である。このいずれも海水が富栄養化されるにつれて増大する。この点だけをみると富栄養化論は正しい。
しかしほたてがいは元来貧栄養海域の動物であることを忘れてはならない。この貧栄養の程度をCOD(化学的酸素要求量)でいうと1ppm以下すなわち1リットルの海水中に含まれる有機物量が1mg以下であるということである。東京湾は夏には7~8
ppm、冬にはその1/3~1/4に低下するが、冬の海がきれいな時期でも東京湾ではほたてがいは育てられないということになる。CODで表示される数量は、海で繁殖する植物プランクトンや有機懸濁物さらに陸上から海へ流入するいろいろな廃棄物などすべての有機物の量を示している。COD量は富栄養化、別の言葉でいうと海の生産力の向上に伴って増大し、同時に餌の量もふえるのであるが、ほたてがいは水中にあまり餌が多くつくられ得るような環境では、正常な生活を続けることができないといった相矛盾した性質をもっているのである。
また一方では、餌が不足すると、呼吸は続けてはいくが、何らかの障害を受けて傷ができた場合は、その修復を果たさずに、これがもとで命を失なうようなことにもなっていくといった謎めいた特性をもっていることもまたわたし達は深く考えておかねばならぬのである。 |
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元東海大学教授・理学博士
山本 護太郎 |
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